あたしはママ以外の誰かに愛されたことなんてなかった。
もちろん誰かに『愛してる』なんて言われたこともない。
だから戸惑った。
こんなあたしを玄蛇は
愛してる
と言ってくれた。
かといってあたしは玄蛇の気持ちに応えらないし、するつもりもないけど。
でも
あたしを見つめる目はすごく切なくて、優しかった。そしてヤツは心の中で―――あの日あの夜降りしきる雨のように
泣いていた。
決して手に入らない、そう気づいているに違いない。
それはあたしが響輔に抱く気持ちだから、あの瞬間気持ちが
共鳴した。
「あの写真がまだ残っとったら、分析しよ思うんやけど、持っとる?」
「う、ううん!全部マネージャーが持っていったわ。片もついたし、もう大丈夫よ!」
これも嘘。ほとんどをあたしが持ち帰り、さらにその数枚を玄蛇に投げつけてやって、あたしの手元に残ったのはたったの一枚。
「てか、分析なんてそんなに簡単にできるものなの?」
「あんま使いたないけどな、PCで分析は可能やよ。ついでにその情報をSNSなんかで流したソースのIPアドレスも辿れる」
言ってること、全然分かんないけど、とにかく響輔には犯人が見つけられるってことよね。
「因みにソースってお好み(焼き)に掛けるのとちゃうで」
「知ってるわよ、そんなこと。情報元ってことでしょ。バカにしないでよ」
と言っても最近知ったことだけど。響輔がPCおたくだってことを知ってちょっと勉強したんだ。
「そら良かった。ところでお好み(焼き)はどっち派?大阪?広島?」
と聞かれて、話が逸れたことにちょっとほっ。いつもならこいつのわけのわからないペースに『何なのよ!もう』って思ってたところだけど。
あたしはお好み焼きと言えば
「広島」即答。
だって元を辿ればあたしだって朱雀の人間だし、当たり前じゃない。
「てかねぇお好み(焼き)って言ったら広島に決まってるじゃない!」
「はぁ?お好み(焼き)はお好みやん!広島んは“広島焼き”やで!」
「そんな言い方しないわよ!お好み(焼き)は広島!」
「大阪」
「広島!!」
と言い合いしながら、そのくだらない言い合いでも楽しかった。
玄蛇とは―――
くだらない会話はいっぱいしてきたけれど、でも
違う。
心がこう、ふわっとなって、ときどき、きゅっとなって、わくわくする感じなの。
玄蛇とは―――
違う。
「ねぇ、響輔
誰かに
『愛してる』
って言ったことある?」



