え――――……
思わず抱かれた肩と、響輔の横顔で視線をいったりきたりさせてると
「こーゆうの、あんま慣れてないから、ぎこちなかったら堪忍な」
と響輔はあたしから顔を逸らしながら小声でボソっ。
「ううん!」
理由が何であれ嬉しい!
“ネズミ”の気配を感じて一瞬身も凍るような恐怖に陥ったけれど、響輔がそれを全て包み込んでくれる気がして、安心した。
とは言っても……冗談抜きで寒くなってきた。
エアコンの設定温度間違えたかしら。
響輔も同じく寒かったに違いない。一旦エアコンを止めて、温かいコーヒーをもう一杯淹れなおした。
響輔はコーヒーを二口飲んだところで、
「そう言や、こないだのアイドルの件、どないなったん?
写真撮ったん誰か判明したん?」
と、予想もしてないタイミングと言葉に、私はカップを持っていた手を滑らせそうになり、慌てて持ち直した。
気にしてくれたことは嬉しいけれど、でも今のあたしは素直に喜べない。
何故かは分からなかったけれど、
あの写真を撮ったのが玄蛇だと知られたくない。
「あ、あの件ね!何とか片付いたわ」
と答えた言葉はみっともなく裏返った。これじゃ嘘だとバレバレだ。
「あれはアイドルさまのスキャンダルを狙ってたパパラッチが撮ったものみたい。
あ、あれからあのルミとか言う女の嫌がらせもないから大丈夫!」
出てくる言葉は全て嘘……だったけれど、あたし今までだったらもっとうまく嘘着けなかった?
こんなみっともなく動揺して……何より心苦しいのが
写真を撮ったのは―――
玄蛇だ。と言うこと。
写真を撮った理由は、あの我儘アイドルさまを芸能界から引きずり落としてやるつもりだったらしいし、実際あの我儘で可愛くもないアイドルさまが居なくなってラッキーだけど、
玄蛇にとって何の得にもなりそうにもならないけれど、
でもそこには深い理由があって……
唐突に、玄蛇の言葉を思い出す。
『愛してる』
玄蛇の言葉が蘇り、カップに入った黒い液体……言うまでもなくコーヒーなのだけどそこに酷く動揺した自分の顔が映り込んで波打っていた。



