良かった。見知らぬ番号でも非通知でもなくて。
ほっとしたのも束の間。何で?と訝しく思った。響輔は特に気にした様子でもなくマイペースにケータイを開いてメールか何かを打っている様子。あたしの電話相手にそれほど興味がなさそうだ。
何なのよ……違う『男』からの電話なのに、全く興味なし?
「はい」
ぶっきらぼうに出ると、
『イっちゃん!聞いてよ~~!!』
開口一番に大きな声が受話口から漏れ聞こえてきた。
「もう!何なのよ!!あたしは今忙しいの!」
大狼に負けず劣らず大声で返すと、あたしの目の前でケータイをいじっていた響輔がケータイの画面を見せてきた。メモ帳欄に羅列された文字を見てあたしは目をまばたいた。
“タイガさんからやろ?何やて?”
『知らない。分からない』と言う意味で首を横に振ると
“会話、長引かせて”と、またも文字が並ぶ。
何が何だか分からないけど、あたしは会話をスピーカーにして
「何?何の用?」と、いつも通りの返答でむすりと答えた。
『ヒツジちゃんとうさぎちゃん、今日デートだって!!!?しかもMIRACLEランドで!!』
大狼の喚き事にあたしと響輔は顔を見合わせた。
「ヒツジちゃんとうさぎちゃんて何よ。MIRACLEランドって、遊園地の??あんたいつから動物園の園長になったわけ?」
『ヒツジちゃんは虎間 戒くんで~、うさぎちゃんは朔羅ちゃんのことだよぉ』
口を尖らせているのだろうか、妙に間延びした返答に「あんたは女子高生か!」とツッコミたくなったけど、やめた。
「それが何なのよ」
『僕だってヒツジちゃんとうさぎちゃんとデートしたいのに!!』
ああ、そ。
もう、返す言葉もない。



