けれど、あたしは結局鴇田の首を絞めることはしなかった。
きっとあたしが首を絞めるより早く拳銃で撃ち抜かれるのがオチだ。一瞬の殺意や衝動で、刹那のミスで自分が命を落とすなんて馬鹿げている。
そう理由を付けたけれど、心のどこかであたしはこう思っていたに違いない。
鴇田は―――
あたしに命を、血を……肉を―――魂を分け与えてくれた。
「…イチ、いつまで掛かってる」鴇田がスマホの画面を閉じ、苛立ったように乱暴にスーツの胸ポケットに仕舞い入れた。
「早くしてくれ。それともこれがお前のもくろみか?俺の仕事の邪魔をする、と言うな」
「別に?今日はオフだけど予定がないの。ちょっと凝った料理作りたかったけど、ホテルのキッチンは簡易的だし、材料もないし」
あたしはネクタイを調整しながら用意してきた嘘を並べた。
「それだけか」
鴇田はまだ疑っている。何よ、あたしの演技は完璧な筈なのに。
はなから信用していないのが嫌な感じ。やっぱりネクタイで絞め上げておくべきだった。
「じゃぁ見張りを置いていけば?」
正直、本当に見張りを置かれたら厄介なことになるけれど……賭けだ。
鴇田は小さく吐息をつくと「生憎だが龍崎グループ本社の締日が迫っている。見張りを置いておく人員もいない」とけだるげに言った。
締日……?そう言えば鴇田は毎月この時期になると特にやつれて疲れを滲ませている。今日なんか目の下に少し隈なんか作っちゃって。
でもそれって……
「じゃぁ帰りは遅くなる?」
「真夜中だ。もしくは泊まり込みになるだろうな」
よし!
あたしは心の中で小さくガッツポーズ。
ごめんねパパ♪一生懸命働いてる裏で、不埒な娘を許してね♪
な~んてね。



