俺と響輔はゴミ袋を持って玄関口へ向かう朔羅の後ろ姿を、いつまでも眺めていた。


「響輔、助かった」


「いいえ。それより気を付けてください。


お嬢があのとき戒さんの血液に触れていたら―――」


「ああ……分かってんよ」乱暴に言い捨ててぐしゃりと前髪を掻き揚げる。





―――『抗原は―――君の何で反応するのかは今の私には分からない、


君の血液か、或は精液か―――あるいは唾液か―――…』




「くそっ!」


俺は柱に拳を打ち付け、ひたすらにスネークの言葉を思い返していた。


顏もまだ見たことない…声だって地声を聞いたわけじゃない、けれどヤツの高らかな笑い声が聞こえてきそうで耳を塞ぎたくなった。


けど、実際耳を塞いだところで、その声は―――消えることがないんだ。


根本を絶たない限り、俺はあいつにずっと苦しめられる。


「……さん、戒さん!」


響輔に呼ばれて、はっとなった。


響輔は俺の両腕を掴んで軽く揺さぶっている。顔に無理やりといった感じで笑顔を浮かべていた。


「……そんな怖い顔してたら、お嬢をまた傷つけますよ?」


朔羅を傷つけ―――………?


そんな――――……そんなこと望んでない。


「今、お嬢にしてあげられることは、戒さん―――


あなたが何でもない素振りで笑顔でお嬢に接することです。



彼女を不安にさせないこと。


彼女を守れるのはこの世でたった一人―――






あなたしかいないのですから」