「あ、あたし!大丈夫だよ。動揺してないし!」
だから行こう!と言う意味で戒の腕を軽く引っ張ると
「動揺―――してくれはったらええのに」
キョウスケも戒と同じ姿勢を取って、目を細めながらあたしを見据える。
「何やと!」
戒の手があたしの手から離れた。
ギャァ!!キョウスケ!何言い出すんだ!
「ちょ、ちょっと喧嘩はやめろよ!お互いせっかくデートの前なんだし」
あたしが止めに入ると、
「痛っ!」
戒が突如小さく声をあげた。
へ??あたし、まだ何もしてないよ。
慌てて戒を見ると、戒は手のひらを広げて、親指の先を睨んでいた。
よく見ると、細い指先には血と思われる赤い液体が浮き出ていた。
「ツナ缶で切ったんだな!あー、もうドジなんだから」
慌てて戒の手を取ると、それと同時にまるでスローモーションのように目をいっぱいに広げたキョウスケの手が再びあたしの腕へと伸びてきた。
それとほぼ同時――――
「触るなっっっ!!!」
戒の――――まるで足元から這い上がってくるような怒りの声を聞いて、あたしの手は不自然に止まった。



