「……うん、ありがと。お前もな……」
あたしも同じだけぎこちない笑顔で返して、だけど今度は簡単にそこを立ち去ることできなかった。
無理やり踵を返すと何だか却って不自然だ。
その場の沈黙をどうやって切り抜けるか考えているときだった。
「響ちゃ~ん♪洗面所空いた??♪」
戒が廊下の奥からひょっこり顔を出した。
戒―――……
良かった!ナイスタイミング!
「俺も髪セットしたいんだよね~。終わったら代わって??」
戒は何が楽しいのかにこにこ笑顔で近づいてきて、でも―――
「戒さん。髪、セットされてますよ」
キョウスケが無表情で戒の髪を指摘。
ホントだ……いつもはサラサラorフワフワ髪が、今日はラフに…ちょっとワイルドにセットされている。かっこいいし…
てかさっきも見たろ!!あたしも、しっかりしろよ!
一々見惚れてんじゃねぇよ!と心の突っ込みをかましているときだった。
戒は廊下の壁にもたれかかって腕を組むと、目を細めた。
「んなの分かってんよ」
不機嫌そうに声を低めて、何が気に入らないのか落ちたツナ缶を乱暴に拾うと
「朔羅、準備はもういいか?」
と今度はいつものにこにこ笑顔であたしに振り向いた。
な…なんだぁ…?また喧嘩??と思いつつも
「あ、うん……」
ぎこちなく頷くと、戒はあたしの手を取り玄関口に足を向けた。
「響輔、
お前が誰とどこで何をしようが勝手やし、俺はあれこれ言わない。
けどな、朔羅を悪戯に動揺させるのだけはやめぇ」
戒の一言でキョウスケが切れ長の瞳を大きく開いた。
戒―――……
偶然じゃなく、あたしを心配してくれたんだね。



