。・*・。。*・Cherry Blossom Ⅴ・*・。。*・。




「……うん、ありがと。お前もな……」


あたしも同じだけぎこちない笑顔で返して、だけど今度は簡単にそこを立ち去ることできなかった。


無理やり踵を返すと何だか却って不自然だ。


その場の沈黙をどうやって切り抜けるか考えているときだった。





「響ちゃ~ん♪洗面所空いた??♪」





戒が廊下の奥からひょっこり顔を出した。


戒―――……


良かった!ナイスタイミング!


「俺も髪セットしたいんだよね~。終わったら代わって??」


戒は何が楽しいのかにこにこ笑顔で近づいてきて、でも―――


「戒さん。髪、セットされてますよ」


キョウスケが無表情で戒の髪を指摘。


ホントだ……いつもはサラサラorフワフワ髪が、今日はラフに…ちょっとワイルドにセットされている。かっこいいし…


てかさっきも見たろ!!あたしも、しっかりしろよ!


一々見惚れてんじゃねぇよ!と心の突っ込みをかましているときだった。


戒は廊下の壁にもたれかかって腕を組むと、目を細めた。


「んなの分かってんよ」


不機嫌そうに声を低めて、何が気に入らないのか落ちたツナ缶を乱暴に拾うと


「朔羅、準備はもういいか?」


と今度はいつものにこにこ笑顔であたしに振り向いた。


な…なんだぁ…?また喧嘩??と思いつつも


「あ、うん……」


ぎこちなく頷くと、戒はあたしの手を取り玄関口に足を向けた。






「響輔、


お前が誰とどこで何をしようが勝手やし、俺はあれこれ言わない。


けどな、朔羅を悪戯に動揺させるのだけはやめぇ」


戒の一言でキョウスケが切れ長の瞳を大きく開いた。


戒―――……


偶然じゃなく、あたしを心配してくれたんだね。