「昨夜龍崎組のお嬢さんが運ばれてきまして、それでバタバタで家に帰れなくてね」


ドクターはアヤメさんに説明をしている。


すみませんねぇ、二人の甘い(?)時間を邪魔しちまって。


と、あたしは嫌味たっぷり、心の中で呟いた。


てか何でここに来る!


早く立ち去れよ!!


と焦りだけが募る。


けれど二人はあたしの焦りとは反対にのんびり…大人の余裕ってのか?会話を繰り出しながらゆっくりとこちらに向かってくる。


「まぁ。朔羅ちゃんが?」


「ええ。軽い日射病だったので大丈夫ですけどね」


「それは良かった」


ドクターとアヤメさん…二人の会話と足音がこちらに近づいてきて


バッ!


あたしたちは逃げることもできずに思わずその場に…車の影へ身をひそめた。


てか逃げようと思ったら戒に引き止められた、ってのが正しいのか。


「あの二人、めちゃ怪しい」


てのが戒の意見だったけれど―――


怪しいのはあたしたちの方だっつうの!!


それでも戒に従って大人しくその場で屈んでいると


ドクターたちの足音がすぐ近くで聞こえて、後部座席のドアを開ける音が聞こえてきた。


「あれ?」


後部座席の扉を開けようとして、ドクターの訝しむ声が聞こえてきた。


ドキリ!


心臓が鳴ってあたしが目を開いていると


『しー…静かに!』


って意味で戒は唇に指を当て、あたしの頭を押さえる。


「開いてたみたいです。閉め忘れかな」


とちょっと恥ずかしそうに笑う声が。


「不用心ですわよ」


とアヤメさんのたしなめる声も。


どうやら二人はあたしたちの姿に気づいてないみたいだ。


ほっ


「そうですね。まぁ盗まれて困るものもないので大丈夫ですが」


見られちゃ困るもんはあるだろうが。


例えばこの粉とか―――




慌て過ぎていて思わず持ってきちまった。あたしは手の中の小麦粉(?)を握りながらドキドキ。