あーあ、せっかくのオフがこれで半日つぶれちゃったじゃない。
嫌になるわ。最後の最後まで厄介な女。疫病神はどっちよ。
ブツブツ口の中で悪態をつきながら、駐車場の自分の車がある場所まで歩いていく。
車のキーをバッグから取り出しているときだった。
「youさん!」
ふと名前を呼ばれ振り返ると、派手な色合いのTシャツ姿でキャップを目深にかぶった見知らぬ男が突っ立っていた。
誰よ。
スタッフではないことは確かだった。だってスタッフ専用のネームプレートが下がってない。
「ファンなんです!サインください!あと握手も」
そう言われて、ファン??それは素直に嬉しいけどここ事務所よ?
待ち伏せしてたのかしら。気持ち悪い。
さっきのマネージャーの言葉が蘇る。熱狂的なファンがいるってヤツ。
それでも
「嬉しい♪ありがとうございますね~!サインですね、どちらに??」
と女優スマイル…もといやや大げさな営業スマイルで演技をして手を差し出す。
こいつがリークしたとは到底思えないし、見るからに頭良くなさそう。
握手してサインしてとっとと帰ろう、と決め込んでたときだった。
「じゃぁここに……」
と、男がジーンズのポケットから何かを取り出し、それが色紙の類でないことは気づいたのは割とすぐ。
その手には鈍く光る切っ先のナイフが握られていた。
え――――……!
気づいたはいいけど、そんなのすぐ見せられて反応できるほど場馴れしてない。
けれど男もそれ以上のことはすぐにしないのか
「静かにしろよ。大人しくしてたら痛い目に遭わなくて済むからな」
と言い置き、背後で足音が聞こえて振り返ると
どこに隠れていたのかいつの間にかあたしの背後にぞろぞろと男たちが回り込み
あたしは、ごくり……喉を鳴らした。



