響輔さんがゆっくりと振り返る。




「youのこと好きなんですか?」





あたしの問いかけに響輔さんは最初本気で誰のことか分からないように首を傾げ、やがて


「youって………ああ、一結のことですか……」


と答えた。




”一結”




やっぱり…………youは響輔さんにとって身近な人。人を寄せ付けないオーラのある響輔さんの間合いに入れる人。


だって名前で…呼び捨てで言い合う仲だもん。それがあたしとyouとの差。


「好きか嫌いか、って言われたら嫌いの部類に入るけど


でもなんでかほっとけないんです」


響輔さんは、今度は強引ではなく至極自然に微苦笑を浮かべた。




―――それを好きって言うんじゃないんですか?




ズキリ、と心臓が大きな音を立てた気がしたけれど、あたしはそれに気づかないフリをした。



やだ……


『お嬢が好き』って言われたら勝ち目がないような気がするけど、『一結が好きかも』……って何かとっても悔しいよ。





「あたしの入り込む隙間はありますか?


響輔さんの心に入り込む隙間は。


ほんの少しでもいい。二番目でもいい。


あたしのこと、見てくれませんか」




我ながら大胆だったと思う。


それに二番目でいい、なんて本気で願っているわけでもない。


でもそれだけのことを言わせる程―――あたしの中は響輔さんで溢れてる。





だけど響輔さんは―――


今度はまたも困ったような作り笑いになってあたしを振り返ると



「あんま安っぽいことしないほうがいいですよ。


リコさんはそんなことしなくても素晴らしい女性です」




安っぽい―――


その言葉を聞いて、急に自分が恥ずかしくなった。


あたしは―――――



響輔さんを手に入れるためにどうすればいいの?


どうすれば響輔さんはこっちを見てくれるの……?



教えてよ、





エリナ。







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