バイクに乗るのも、男の人の腰に抱き付くのも―――初めての経験だった。
響輔さんに抱き付きながら、密着した体から心臓の音がバクバク聞こえちゃわないか―――それだけが心配だった。
「怖いですか?」
と、そのドキドキを悟ったのだろう、響輔さんがハンドルを握ったまま僅かに顔を後ろに向けた。
「い…いえ!」
そう答えるのが精一杯。
恥ずかしい!!心臓の音、聞かれちゃった。
でも実際、結構なスピードが出てたと思う。
風を切る音がメット越しにびゅうびゅう聞こえた。目の部分を覆うシールド越しに見えた景色が早い速度で流れている。
思った以上に大きなエンジン音がおなかの辺りに震動してきて、慣れないその感覚がちょっと怖くてあたしはぎゅっと響輔さんの腰に掴った腕に力を入れた。
痛かったかな……て思うぐらい。
だって。はじめてのことで怖かったんだもん。
でも響輔さんは全然嫌な顔してなかった。
きちんとあたしを家に送り届けてくれて、無事たどり着いたときは正直ほっとした。
「着きましたよ」
バイクが完全に停止してその言葉を聞いたとき、あたしは慌てて響輔さんから手を離した。
「送っていただいてありがとうございました」
「いえ……さっきも言いましたが新垣さんの家の付近は不審者がうろついている危険な場所です。
そう近づかない方が……」
響輔さんはさっきの力任せの言葉じゃなく、慎重に言葉を選んでいるようだった。
だからあたしも慎重に言葉を選んだ。
「あたし―――……さっきはごめんなさい。
心配してくれてるの分かってたのに素直になれなくて」
あたしの言葉に響輔さんはうっすら笑って
「俺こそすみませんでした。リコさんの気持ちも考えず頭ごなしに言って」
すぐに頭の後ろに手をやると俯き加減になってキマヅそうに視線を逸らす。
「頑固―――……って言ったの、取り消してもろてええですか?
虫が良すぎる言われるの分かってますけど、
頑固なんは俺の方やった。
ほんまにすんませんでした」



