結局、あたしはそれからほどなくして新垣家から出た。
響輔さんはこの炎天下の中ずっとあたしを待っててくれたみたいで、額の汗を半そでの袖口で拭いながら、しかめっ面を浮かべている。
怒ってるのかと思って一瞬居竦んだけれど、あたしを視界に収めると響輔さんはしかめっ面を拭い去りやんわりと笑顔を浮かべた。
「やっと出てきてくれましたね」
「………はい…ご心配をおかけしました……」
響輔さんの顔を直視できず俯きながらおずおずと言うと
「帰りましょう」
と、諭すように柔らかく一言言ってあたしに黒い大きなヘルメットをズイと差し出してきた。
「……え…」
「バイク……怖いかもしれませんが、後ろに乗ってください。送っていきます」
響輔さんは傍らに立てかけてある大きな黒いバイクを顎でしゃくり、あたしはただただ目を開いてメットとバイクの間で視線をいったりきたり。
あたしの返事を聞かずして響輔さんは長い脚でバイクを跨ぐ。
あたしは慌ててバイクに駆け寄った。
けどバイクなんて乗るの初めてで、どうすればいいのか分からない。メットを手の中で包んだままその場で立ち止まっていると
響輔さんはあたしの手からメットを引き取り、そっとあたしの頭にかぶせた。
「ちょっと暑いかもしれませんが……少しだけ辛抱してくださいね」
「あ……はい」
あたしの返事はメットの中反響してくぐもった声になった。
響輔さんが使っていたメットは響輔さんが使ってるシャンプーなんだろうか、柑橘系の爽やかな香りで満たされていて
心地良かった。



