タクトはうまいね棒をリュックから取り出し、 ぱりっとかじる。 いつも持ってるんだな、この人。 「昔、リレーの選手になったことあってさ、俺」 「うん?」 タクトが嘘じゃなくて、 自分自身のことを話してくれるのなんて珍しい。 私はどきっとして、彼の話に耳をかたむけた。 タクトは少しさみしそうに笑っていた。 「俺、アンカーでさ。 トップでバトンもらったんだけど、 途中で一人に抜かされて。 結局最後まで一番前を走ってるやつの背中を 抜けなかったんだ」