ある朝のことだった。

いつも通り煩い目覚まし時計を止め、身支度をすませてリビングに向かえばそこにいつも早起きしてニュースを見ている少年の姿が見えなかった。



「あれ?大河は?」



そう聞くとお父さんもお母さんも泣きそうな顔になりながら「「大河(くん)が風邪をひいたんだ(のよ)」」なんて声を揃えて私に言ってきたものだから私は迷わず「親バカか」と言い放った。

最初の頃は一人っ子ということもあり、お父さんやお母さんが私だけの親でなくなることが不安で寂しく思えたりもしたが、父と母が呆れるほどに義弟を溺愛している様を見ていたら不思議とそんな小さい悩みはどこかへ消えていた。

それどころか今は、負けないくらい義弟が可愛くて仕方が無い。

そんなことを考えていればいつの間にか朝ごはんを食べ終わっていた。

時計を見ればいつもよりまだ少し、時間に余裕がある。



「いってくる、大河をよろしくな!」

「任せてアナタ!」



恥ずかしくなるような両親の会話を聞きながら私は自室がある二階へと続く階段に足を踏み出した。

大河の部屋は、私の部屋の隣に位置している。

「大河、はいるよ」なんて言って扉をあければそこには額に冷却シートなるものを貼った少年がベッドに横になっていた。

寝苦しそうなところを見ると結構高熱なのかもしれない。



「大河、大丈夫?」

「…ん、」



私が声をかけると少年は苦しそうな吐息と共にうっすらと目をあけた。

近づいて少年の頬に手を当ててみれば思ったよりも熱くて心配になった。



「…」



意識が朦朧としているのか少し虚ろな目をしている少年は私の手の上に自分の手をそっと重ねてくる。



「大河、今日は甘えん坊なの?」

「…」



ふふっと笑いながら時計を見ればもうそろそろ学校に行かねばならない時間だった。

少しだけ勿体無い気もしたが重ねられた少年の手を自分の手と共に頬からどかす。

「ゆっくり寝て、はやく治してね」と言い残し部屋を出ようと立ち上がると少年の虚ろな目が一瞬、大きく開かれた気がした。





「…行、かな…で、…かあ、さん…」










(私は義弟のことを、)
(まだなんにも知らない。)