「と、いうわけでこれお金ね」



目の前にはニコニコと笑う母。

差し出されたのは封筒と買い物リスト。



「私にこの子の日用品を買いに行けと?」

「この子、なんて言うんじゃありませーん!可愛い弟でしょう?」



ねー?大河くーん?なんて言う母に少年は気まずそうに目を泳がせていた。

なるほど。朝から少年が私を起こしにきた理由はこれか。

察するにテンションの高い母に私を起こすよう頼まれ断れなかったんだろう。

だけれど少年には悪いのだが休日は昼過ぎまで寝るという自分のライフスタイルがある私からしてみれば“買い物”というのは正直少しだけ面倒くさかった。



「お母さんは?」

「お母さんはちょっとお友達とお茶会なのよー」

「へー」

「だからお願いね?」



お茶会と少年の買い物どっちが大事なんだこの人は…なんて思ったがお母さんのことだ、もしそう言っても「約束は守らなきゃでしょ?」なんて言うに決まっている。

私が少しだけ溜息を吐きながら「はいはいわかりましたよ」と言えば「あと大河くんにこの町の案内もしてあげてちょうだい、ほら大河くんも来週からこっちの中学校通うから」なんて言ってきた。ほう、中学生でしたか。

少年の身長はまだあまり高くなく、多分160あるかないかくらい。

私よりは少しだけ高いけれどそれでもやっぱり幼く見えるのはその整った顔立ちが少々童顔だからだろうか。



「大河、中学何年生?」

「…!………」



初めて名前で呼ばれたからかそれともいきなりの質問に戸惑ったのか少年は少しだけ驚いた顔をして母の後ろに隠れるように後ずさり、少し間をあけてから指を三本立てて此方に向けてきた。

どうやら少年は中学三年生らしい。

そしてそんな少年の仕草に母は可愛いと連呼し騒ぎ出す。本当に朝から騒がしい母親だ。まあ気持ちはわからなくもないけれど。



「よし、それじゃあ朝ごはん食べたら出発ね」

「…」



私の言葉にコクリと頷く少年。うん、とても可愛い。

既にテーブルに並べられた朝ごはんを食べるべく席に座れば少年も母の後ろからでてきて私の隣の席に座った。

席は他にも空いているのにわざわざ隣の席に座る少年に思わず顔が緩んだのがわかる。(そういえば家族会議の時も隣の席に座ってたな…)

なんだか今までいなかった“弟”という存在が照れくさい。










(そんな私の姿を見て、)
(お母さんは静かに微笑んだ)