「……そんなことが、あったんだ。」



母の話を聞き始めてどのくらいたっただろうか。

母は時々涙ぐみながら少年について知っていることを話してくれた。

父と母が初めて少年と出会ったのは、少年と“涼太くん”がサヨナラをしてからすぐのことだったそうだ。

少年は最初、父と母の申し出を断ったそうだが何度か会いに行くうちに少しずつ気を許してくれたようで、涼太くんの話も自分の話もしてくれたらしい。



「泣きながら話をする大河くんをね、私もお父さんも、守りたくなっちゃったのよね。」



そう言って笑った母の姿を見て、改めてこの人が親で良かったと心から思った。

私は、少年から直接話を聞いたわけじゃない。

だけれど、





「私も、大河を守るよ、…大切な、弟だから。」





そう言ってみせれば母は一瞬驚いた顔をしたけれど「ありがとう」とまた微笑んだ。

私も自然と顔が緩んだのが分かった。










***










「………ハコ、重いよ、」



少し不機嫌な少年の声で目を覚ます。

母から話を聞いた後、私は何故か無性に少年に会いたくなって少年の部屋へと潜り込んだ。

そしてどうやら、少年の寝顔を見ているうちに凭れ掛かるようにして寝てしまったようで…。



「あ、ごめん」

「……」


急いでとび退けば、少年は此方をじっと見つめてきた。

なんだなんだ?と私は首を傾げながらその視線に返すように少年を見つめる。

すると少年は熱で熱くなった手を私の目元まで持ってきて止めた。



「……ハコ、泣いた、の?」



その言葉に少しだけ、胸が苦しくなった。

“泣きたいのは大河の方でしょう”

でかけた言葉は飲み込んで私は少年を抱きしめた。

一瞬少年はビクリと肩を揺らしたけれど、突き放すことはしなかった。




「…まだこんなに小さいのにね」

「……?……僕、ハコより、大きいよ…?」

「…んーん、小さいよ、」




そう言えば、少年は不思議そうな顔をした。










いったいこの小さな背中に、どれだけのものを背負ってきたんだろう。