「…大河、もしかして…」
「……」
震える声で僕に問う彼の言葉に僕は黙り込む。
彼の推察は間違ってなんかいない。
ただ、“未遂”だっただけで。
嫌がる僕に、母は泣いてせがんだ。
「私にはもう大河しかいない」「寂しさを埋めてほしい」と。
僕はその時まだ小学生だったけどその言葉の意味はなんとなくわかった。
だから、僕はその日から母を避けるようになった。
何度も、何度も、夜になると僕の所に来ては求めてくる母に吐き気がしたこともあった。
「…母さんを支えて、あげ、なきゃって思った、だけ、ど僕は、」
「…大丈夫、俺、聞いてるから…、ゆっくりで…いいから、」
「…っ、…母さんの、子供、で…いたかった、んだ」
自分の瞳から落ちてくる雫は拭っても拭っても溢れてきて、まるで自分の身体じゃないみたいだった。
震える僕の身体を抱きしめてくれた涼太の身体も、僕と同じように震えていた。
「…母、さんは、朝になるとごめんねごめんねって何度も謝って、きて、」
「…うん」
「……僕はその度に、胸がぎゅ、ってなって、…っ」
「…うん」
「…そのうち、母さん、は、自分か、ら児童相談所に…、」
僕の母は、自分から児童相談所へと連絡したそうだ。
それから少し経って、僕は、此処に来ることになった。
最後に見た涙でぐちゃぐちゃになった母の顔は、“母親”の顔をしていた。
「…ぼ、くも…、本当は、三人、で一緒に…いたかった、!」
「…大河」
「…寂しかった、…僕、さ、びしかった…!」
「…うん、」
「…僕もあの、とき、ちゃんと…!」
――――――ちゃんと、自分の気持ちが言えていたら。
「…なにか、変わ、っていたか…な…っ」
後悔の音は、空間に解けて消えた。