「…大河、俺の話を聞いて」



少しだけ僕の涙も彼の涙も止まった頃に、涼太は僕の手をひいて大きな窓のある部屋へと連れて行った。

涼太が先生や他の子になんて言ったのかはしらないけれど、僕と涼太を見るみんなの顔はどこか優しくて僕たちの話が終わるまでこの部屋に入ってくる人は誰もいなかった。

彼は初めて、自分の話をしてくれた。

その顔は今まで笑ってばかりの彼とは違って、少しだけ大人びて見えた。



「俺、親が死んだんだ」



此処にいる子供たちの中では特に珍しくない理由だった。

だけれどその苦しみはきっと本人以外、誰にもわからないのだろう。

時折大粒の涙を流して、だけど少しずつ話をしてくれる彼につられて泣いた。

お母さんもお父さんも大好きだったこと。

二人は交通事故にあって死んだこと。

自分はその事故で庇ってくれた両親のおかげで生き残ったこと。

親戚の人たちには事情があったのか引き取り先がいなかったこと。

気がついたら、此処にいたこと。



「…俺、死にたかったよ」

「…」

「どうして母ちゃんも父ちゃんも、俺なんか庇ったんだって、」

「…りょう、た」

「…俺もいっ、しょに連れてってほしかった、…離れた…く、なかった、よ!」



声をあげて泣く涼太に手を伸ばした。

嗚呼、僕も…、



「…僕も涼太みたいに、あの時全部言えたらよかったの、かな」



抱きしめた涼太は、思ったよりも大きくなかった。

肩を揺らしている少年に、僕も初めて自分のことを話そうと思った。










***









僕の家族は三人家族だった。

大きな会社の社長をしている父と、その会社に勤めていた母の間に生まれた僕は、なんの不自由もなく母好みの可愛い一軒家に暮らしていた。

父と母は仲良しで、僕のことも大事にしてくれた。

色んな場所にも行った。

大きな魚がいる水族館や大きな観覧車がある遊園地、そして僕の好きな本屋。

今思い返してもどれも楽しい思い出だった。

父と母の若い頃の写真や、僕の小さい時の写真や、出かけ先でとった家族の写真が、僕の家の廊下には沢山飾られていてとても賑やかだった。



「…それなのに、なんで?」

「…父さんが突然、母さんに離婚を切り出したんだ。」

「…」

「…ううん、突然っていうのは不備があった、かも、」

「…大河、」

「…本当は、僕が気づかないふりをしてただけで、もっとずっと前から、僕の家族は壊れかけていたのかもしれない…。」



廊下に飾られていた写真がどんどん少なくなっていったのを、僕は何も言えずにただ見ていた。