「じゃあ行って来る!寂しいからってご飯残すなよ?」

「…僕はうさぎじゃないよ」



不貞腐れたようにそう言えば、涼太はまた大きな声で笑って僕の頭をポンポンと撫でた。

彼はよく僕の頭をポンポンと軽く叩くように撫でる。

「僕が小さいからってそういうことしないでよ、同い年だよ」と言えば「ちっげーよ、おまじない」と言いながら、優しそうな夫婦に手を引かれて施設を出ていった。

なにがおまじないだよ、涼太の気まぐれじゃないか、なんて思いながらも僕は少しだけ手を振って涼太を見送る。

そんな僕に涼太はまた、太陽のような笑顔を向けていた。



今日は涼太の“おむかえ”の日だ。

いつもは施設内で会うだけだったけれど今日は外にお出かけするそうで、涼太の話だと遊園地に遊びに連れて行ってもらえるそうだ。

「…へえ」なんてどうでもよさそうに答えたけれど本音はちょっとだけ羨ましいと思った。










***










「…、」



施設内にある大きな窓のある部屋の片隅で読書をするのが僕の此処での主な過ごしかただった。

学校に行っている時以外、僕はあんまり外出をしない。

別に外が嫌いなわけではないけれど外にでても別に楽しくないから此処にいる。

いつもはそんな僕にうるさいくらい話しかけてくる涼太のせいで、読書が進まないとかなんとか文句をいっていたけれど今はそれが無いのが少しだけ寂しかった。



「…そっか…、此処にきてからずっと、涼太が傍にいたから…。」



考えてみれば、一人になるのが久しぶりだった。

施設の中では勿論、学校でも、僕はいつも彼と一緒にいた。

だから学校で“施設の子”だと意地悪をする奴がいても僕は平気だった。

だって僕には、涼太がいる。寂しくない。寂しく、ない。



だけど、もし、



もしも、涼太がいなくなったら?




「…読書、進まない、」





栞を挟んで本を閉じた。

窓から見える空を見上げる。

今頃、涼太は遊園地で楽しんでいるのだろうか。







「ねえ涼太」


「今日はうるさくしても怒らないから、」







「……はやく帰ってきてよ、」







『…俺が、おむかえを決めたら、寂しいか?』

昨日の涼太の声が、やけに鮮明に僕の頭に木霊した。