「酷い!!」


二重瞼の大きな瞳に
涙をためながら
蓮音は洋介の手を振り払った。


席を立ち
カフェを飛び出した。


(酷い…ひどい…

本当に酷い。
あの人なんなの?

私の初めてのキス…

苦い煙草の匂いなんて…

酷すぎる。)

蓮音は走った。

走ったはずだったが…

腕を掴まれ
後ろに倒れそうになった。

「悪かったよ…。」

腕の痛さと
驚きの余り振り返ると
心配そうな顔をして
息を荒げた洋介が
見下ろしていた。


「お前…

蓮音は…
キス…初めてだったの?

ごめんな…
そうだよな…。ごめん!」

洋介に抱きしめられた。

微かな煙草の匂いと…
洋介の心臓の鼓動が聞こえた。

蓮音は泣いた。

心では抱きしめられたくないと
拒否しながらも
混乱と絶望感で
身体が動かなかった。

そのまま洋介に
抱きしめられたまま泣いた。