「ひで…
身体に気をつけて
上司や先輩に
迷惑かけんようにしっかりな。
いつでも帰れる時は
帰って来いなぁ。」
寂しそうな顔をして
俺を見送ってくれた両親。
実家には成人式の日も
帰れそうにない。
俺ひとりだけじゃない。
みんなそうだ。
俺は陸上自衛隊に
入隊してから
佐賀で
小さな自転車屋を営む両親に
仕送りする為に
必死だった。
弟もまだ高校生だ。
ふたりの姉達は
嫁に行ってしまったから
長男の俺としては少しでも
両親の力になりたかった。
高校も男子校で
今まで
付き合った女の子もいない。
モテなかった…
訳じゃない…よな?
中学は共学で
サッカー部のエースだったから
そのおかげで
サッカー推薦で高校に入った。
地元の新聞に載ったり
練習は勿論、試合の度に
記者やスカウトマンに囲まれて
プロとして
食っていけるとまで
言われていた。
女の子達も見学に来てたし
一応、手紙や贈り物を
もらったりもしてた。
だけど…
近寄ってくる女の子と
付き合いたいなんて
全く思わなかった。
俺の心に響く女の子は
今までひとりも
いなかったんだ。

