俺は深呼吸して
彼女の目の前に立った。


〈心臓バクバクだ…

蓮音ちゃん
下向いちゃったなぁ…
もっと小さくなっちゃって…
今どんな表情してるのか
全くわからんけん。〉



(やだぁ…何なの?

応援団みたいに
後ろで腕組みなんかして…。)


千尋と涼がすぐそばに居る。

帰宅中の学生や
ホームに急ぐ親子連れや
人々で騒がしいはずなのに
秀也と蓮音の…
ふたりの空間だけ
空気が固まったかのような
沈黙が一瞬流れた。


「自分は…

自分は涼さんの後輩で
陸上自衛隊○○駐屯地
有信中隊所属、
佐賀県出身の九州男児!

榎本秀也、20歳です!

自分はこの駐屯地に
配属されてから
夫婦橋を訓練中通る時、
重そうな鞄を肩にかけ、
橋の真ん中で
川を眺めているあなたの姿を
見かけるようになりました。
橋を渡りきった先の電柱に
時々ぶつかって
周りをキョロキョロ見渡す姿が
可愛らしくて蓮音さんと
話してみたいと
思っていました。」


秀也の声は

駅の構内に響き渡り
周囲の人々が驚いて凝視したり
笑いながら
ふたりの横を通り過ぎた。