魔法の使えない魔女





『来た!来たぞ!あの男だ!捕まえろ!』



「なんか…外…騒がしくねえか?」


外の方がガヤガヤとしているのに気づいたリクは窓の方に歩いていく。

俺もそれに続いた。



……あれは………。



前方に黒いものが見えた。

街を破壊しているみたいだ。

そしてそいつを取り巻く緑の光。


俺は息を飲んだ。


「………エリックじゃな」




割れた水晶を遠い目で見つめながらつぶやく。

「ばーさん…知ってんのか?」


「当たり前だろ?わしは何でも知ってるよ」



「けっ、その水晶が教えてくれたんだろ?」


「たわけ!…全てわしの知識だよ。西の街では有名な男だ」


「有名なのにゃ?」


「……あの男は…異常に強い…。おそらく…石のせいじゃろ」


「「石?」」


「ああ、もともとわしの家にあったいしなんじゃが……なんというわけか…1つ落としてしまってな…………どうやらあの男の手に渡ったらしい…。」


俺はリクに視線を送った。


どうやらリクも同じことを考えていたらしい。


「…ばーさん、その宝石って……12の誕生日か?」



「よく知っとるのぅ…、12のうちの5番目の宝石、エメラルドじゃ。」


「エメラルド…。」



「だから緑だったんだにゃ…。」



「ひょっとして……おぬしら…この娘のために宝石を探しておるのか…?」


ばーさんはマナの事をみた。




そして…




「やめた方がいい。…この娘は…力不足じゃ。石を見極める力も備わっておらぬ。…騙されるだけじゃ。」


「ってめ、なんてことを…!」



「わしはほんとの事をいってるだけじゃよ。……かつて2000年に一度の魔女と言われた娘達は同じように宝石を探してさまよった。……………しかし…………」


突然老婆の表情が曇り、

俺は嫌な予感がした。



「……みんな……………死んだ。」




「…っ………。」


リクも驚きを隠せない様子で口に手を当てた。


「…まじ…かよ…………。」




「………世の中には石を狙う闇の組織が存在する。あいつもその1人じゃ。闇の組織の中には石の力を最大限に発揮するための力を持つものもいる…。そいつらに遭遇してみろ……。命は無いぞ…。」



俺達は息を飲んだ。

あんなにうるさかったルビーでさえ下を向いて黙りこくっている。



「キャーーーーーー!」


静寂の中、外からの激しい悲鳴で我に返る。



「リク兄、行くぞ」


先にみんなに背中を向けたのはセトだった。



「行く…って…お前…」



「決まってるだろ、エメラルドを取り返してくる」




約束したんだ…。



小さい頃…。






「………お前ってやつは…」





コイツと…………。





「仕方ないだろ。こうしていても街は破壊される一方だ。無罪な人を怪我させるわけにはいかねえ。」



驚いた顔をしたリクはその後、ふっ…と笑ってこう言った。


「セトもたまには正論を言うのな」


「うっせ」




コイツはもう覚えてねーかもしれないけど


………きっと俺が幸せにするって…。





「リク様あ、あたいは…」


リクもこちらに近づいてくると足元から声がした。


ルビーか…。




「ルビーは残っていてくれ。」



すぐに跪きルビーと視線を合わせるリク。




「え、でも…」




ルビーは案の定ついていきたいと言う顔をした。

そんなルビーに俺は軽く挑発をしてやった。


そうでも言わないとついてきそうだったから。仮にも女の子だし…あんな戦いに出すわけにはいかない。


「おい、ルビー。マナを危険な目に合わせたらお前を八つ裂きにするからな」



するとルビーはすぐに挑発に乗ってくれたようで…。



「言われなくてもそうするのにゃ!セト、お前にだけは指図されなくないのにゃ!」



セトを睨みつけてそういった。




「おいおい、喧嘩はあとだぜ、ルビー、頼んだ。」



リクはまた呆れ顔でそうゆうと立ち上がる。


ルビーはリクの頼んだ、と言う言葉を聞いて機嫌を取り戻したのかにっこりこちらに微笑んだ。


「了解ですにゃ!」


「気をつけて行くんじゃぞ。誰もアイツを止めたことはないのじゃからな。」


老婆もそう言った後、「おう!」っと言い残し俺達ふたりは窓から外に飛び出した。