瞼の裏にいつもあの黒髪が残る。
僕もあんな風に髪を伸ばしたい。スカートを履いて歩きたい…。
僕はカッターシャツに腕をとおした。

ネクタイをしめ、ブレザーを羽織り、李花の待つ玄関まで急いで走る。

「そんなに急がなくてもよかったのに。」

李花はガムをクチャクチャ噛みながらいった。ケータイをさわりながらこちらを見もせず学校の方に歩きだす。

「行儀悪いな。女なんだから、ちょっとはしおらしくできねーの?」

僕はズボンのポケットにわざと片手を入れた。

「うるさいなー。優一までお父さんみたいなこと言わないでよ。」

李花のケータイの相手は『ヤツ』だとわかっている。どうせ学校で嫌でも会えるというのに、朝から晩まで連絡をとりあって…。
たまには迷惑というものも考えてほしいものだ。

「ふう…。」

自然と息が漏れてしまった。それと同時に、背中に突然ズシッと重みがのしかかった。