「神子ー!7時よ!起きなさーい!!」



遠くで和代おばさんの声が聞こえてきた。
春上旬。
朝に弱い私は和代おばさんの声が聞こえていても、寝たふりをしていた。
うぅ〜、起きたくないよ〜。
でも起きなきゃ〜。
心の中で起きるか起きないか迷っていたら。


ドンドンドンドン!
誰かが階段を駆け上がってくる。


ガチャ‼︎

「神子!早く起きろよ!
今日入学式でしょ!?」

あぁ〜この声は……。
え、ちょっと待って。


「ああああああああああ!
にゅううううがくしきいいい!」

さっきの眠気は何処へ行ったのか、
私は叫びながら慌てて起きた。


「も〜入学式に遅刻ってどういうことよ〜。私、先に行くからね。」

「え〜、美沙ぁぁ…」

「また、後でね。」


バタン


美沙が部屋のドアを閉めた瞬間、
私はクローゼットから
真新しい制服を取り出した。

「…はぁ。」



ため息の理由。
実は、私、桜ノ宮 神子(みこ)は、
第一志望の高校に行けませんでした。

この高校を受験する一ヶ月前までは、
もう少し偏差値の高い
大高高校に行くつもりだった。

だけど。
「このままじゃ大高高校、落ちそうですね。」
中学の時、担任の先生に
ズバッと言われてしまったこの言葉。

児童養護施設に住んでいるので、
私立には行けないと思い、かなり偏差値を下げ、今日から私は
北高校の生徒になる。


「…でもしょうがないよね。
北高校で頑張ろう。」

1人でブツブツ言いながら
パジャマを脱いで制服に着替えて、
全身鏡の前に立った。



北高校の制服の可愛さは、
地元では有名な程だった。
赤チェックのスカートに、
同じ柄の大きなリボン、
白いブラウス、
紺色のブレザー。

どこかのアイドルの衣装みたいだった。



「…似合ってないかも。」

可愛い子が着れば可愛いんだと思うけど、化粧っ気がない私が着たら
やぼったくみえてしまう。

…これ、美沙の方が絶対似合う。


中田 美沙(みさ)は私と同じ歳で、
ここの児童養護施設、さくらおか園に一緒に住んでいる親友だ。
美沙とは同じ中学だったが、
かなり素行が悪いと評判だった。

もちろん、高校は違う。


…でもそんな美沙が羨ましかった。
自分が思ってる事を、全てズバズバいう性格。自分がしたいことをする性格。


私には、そんなことできない。
引っ込み思案で、人見知りな私は
中学でも友達が少なかった。

でも、美沙はそんな地味な私と
いつも一緒にいてくれた。
美沙は、本当はとても優しくて正義感が強い子だと誰よりも知ってる。



くるっと部屋を見渡した。
淡いピンクで統一させた部屋。
自分でもこの部屋は可愛いと
自信を持って言える。


「よし、下にいこ。」

革のバックをもって、
和代おばさんのいる一階へ行った。