それは夏の雨の日だった。


…バシャバシャ


いよいよ夜中だという時間に、
女の人が傘を持って走ってくる。
手には大事そうに抱えた、
布にくるまれた、それ。

「はぁはぁ…。」
随分走ったのだろう。女の人は息が上がっていた。
今にも泣きそうな顔だった。
「ここだ…さくらおか園…」
女の人は表札を確認し、
周りに誰もいないか見渡した。

そして静かに、屋根がある玄関に布にくるまれたそれを置いた。

それは、小さな赤ん坊だった。





「ごめんね…本当にごめんね…。
…神子…。」

そういうと女の人は玄関のチャイムを押し、走って行ってしまった。



…ガチャガチャ‼︎

中から決して若いとは言えない女性が慌てて出てきた。

「あらあら…こんな時間に…。
かわいそうにねぇ…」

女性は赤ん坊を抱き上げて、
スヤスヤ眠っている顔を見つめた。

と、その瞬間。
ヒラっと落ちた一枚の紙。
それを拾い上げ、女性は
少し悲しそうに微笑みながら言った。


「…神子ちゃんかい。
良い名前じゃないか。」



その女性の胸の名札には、
優しい字で、
和代おばさん
と書いていた。