金木犀の香りが、胸の奥まで入ってくる。
珍しく俺のランチタイムに、同期二人が介入してきた。
「もうね、本当亮介ったら可愛いんだよ」
柴田がキャッキャッと騒ぐ。
中津とうまくいったらしい。可愛いなんて、俺がこの会話聞いてていいのかよ…
「あの告白の仕方はうけたわ」
胡桃沢も一緒に笑う。
女って怖い。
「ね、山口くんは最近どうなの?」
「え?俺?」
「こいつさ、最近うぐっ」
胡桃沢の口にハンバーグを突っ込んで、俺はニコッと微笑んだ。
「なーんにも」
「えっ、奈々!早く飲み込んで!」
苦しそうに頬張る胡桃沢に、俺は大きくカットしたハンバーグを更に向ける。
胡桃沢は無理!と言いたそうに、眉を寄せた。
「奈々には教えて、早苗には教えてくれないんだー…」
「いや、ちょっと恥ずかしいじゃん」
頬を膨らます柴田は、ギロッと俺を睨み付けた。
あーあ、せっかくのランチタイムを邪魔しやがって。後で胡桃沢に酒を奢らせよう。
「減るもんじゃないんだから、いいじゃん」
ハンバーグを飲み込んだ胡桃沢が、しれっとした顔で続ける。
そもそも俺は胡桃沢が好きだったわけで…
いつまでも元彼を引きずってるのかと思いきや、いつの間にか彼氏ができていた。
そんな俺に、最近どう?なんて柴田も鬼だな。
「財務経理部の…」
「分かった分かった!最近、財務経理部の小野さんて子に連絡先聞かれて…」
女って好きだよな、こういう話。
俺もまあ、そんな感じで前に進んでいる。
暫く恋なんていいやって思っていたのに、気が付いたら小野さんのペースに乗せられていた。
「デートはどこに行くのかなー?」
胡桃沢がニッコリ笑う。喋らなきゃ良かったと今更後悔するけれど。
「あ、ねぇ後ろ…」
柴田がポカンとしたまま、俺の後ろを指差した。
「山口さーん!ハーレムなんて、許さない!」
噂の小野さんが俺の隣に腰を降ろして、腕に抱きつく。
「じゃ、お先~」
二人はニヤニヤしたまま、席を離れていった。
俺、しあわせなの?
「はい、山口さん!あーん…」
まあ、いっか。
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