抱きしめられた瞬間に、涙がまた私の頬を伝う。


今夜だけと、何度も言い聞かせたのに。


なんて人。



忘れるなんて、出来ない。
もう、忘れる必要もないのだ。


「奈々。側に…いて」



あんなに遠かった。


夢の夢だった。



しあわせなんて、私には来ないってどこか諦めていた。


あいつを失って、あいつ以上に愛せる人なんてどこにもいないと思ってた。


だけど、心の奥底ではいつだって


しあわせになりたい



そう願っていたんだ。


ただ、しあわせになりたい。



それだけのことなのに、高すぎて手が届かない気がしていた。



何度も確かめ合うようにするキスは、私の胸をギュッとしめつける。



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