長い間、溶けるようなキスを交わして。

私の手からするりと、プチトマトの袋が落ちた。


大切なのに、拾う時間すら惜しく感じてしまう。


もう一度、ギュッと抱き締められて。


あぁ、もうこのままくっついて離れなくなってしまえばいいのに…なんて、非現実的な事を強く思った。


よくドラマで聞く使い古されたセリフ。


今なら意味がよく分かる。



「篠崎さん…」


自分の声が、自分の声じゃないみたいに聞こえてしまう。

どこか傍観しているから?


「…好き。どうしようも、なく」


涙がまた込み上げてきて、初めてこの恋の辛さを知る。


どんなに願ってみても、私は彼を手にできないって。


「奈々」


ズルいよ。そんな時だけ、名前で呼ぶなんて。


「もっと…呼んで」



「奈々…俺、」



"篠崎さん"じゃなく、"檸檬"が見える。

本当の、姿が…




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