涙が、ぽろぽろと散る。
篠崎さんは穏やかに微笑んで、首を横に振った。
まだ、伝えていないのに。
それすら許されないんだと悟る。
震える指先で、触れてみたいと思った。
綺麗な瞳に私だけを写して、柔らかな笑顔を独り占めしたい。
甘い匂いに包まれて、溺れてしまいたい。
レモンより酸味の強い刺激で、壊れてしまいたい、壊してしまいたい。
なにもかも…壊して…
崩壊する。
バラバラと崩れて、なんだかもう全てがどうでもよくなる。
「しの、ざきさ…」
彼の腕の中に堕ちて、ただ温かいと静かに思う。
温かすぎて、消えてしまいそうに。
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