連休最終日。
私は401号室の前に立っていた。
ごくりと唾を飲み込んで、胸に手を当てる。
物凄く緊張しているけれど、会いたい気持ちが勝ってここまで来た。
インターホンを押す。
時間は、差し支えのない21時ちょっと過ぎ。
待っている間が果てしなく長く感じる。
「はい」
ロックが外れて、篠崎さんが顔を出した。
「こんばんは」
篠崎さんと目が合った瞬間、胸が大きく音を立てる。
「こんばんは。実家から帰ってきたんですね」
篠崎さんは綺麗な瞳を細めて、どうぞと玄関に入れてくれた。
いい匂いがする。
デミグラスソースみたいな、食欲を駆り立てる匂いだ。
「これ、実家から貰ったんですが食べきれないので良かったら…」
「ありがとうございます。野菜ですか、助かります」
篠崎さんの笑顔が、眩しい。
屈託のない透明な笑顔に、ドキドキが鳴り止まない。
「あ、ちょっと待ってくださいね」
篠崎さんは何か思い出したように部屋の奥へと入っていった。
すぐにバタバタと戻ってきた時には、手に小さな袋が見えて。
私は何だろうと首を傾げた。
「これ、僕が育てたプチトマトです。意外に甘くて美味しいですよ」
「わあ、ありがとうございます」
嬉しい。
篠崎さんが毎日大切に育てたプチトマト。
「クルミさん…僕は言わなきゃいけない事があります」
真っ直ぐ私を見据えるその瞳は、深い深い海の色。
初めて会ったあの日を思い出す。
何故か、そらすことができずに見つめた。
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