胡桃沢 奈々。

一見、仕事が出来て明るくて社内でも指折り数える中に入る美人。

なのに、話すと男みたいな奴。

柴田と点対称。

こんな女、今まで出逢った事がない。

けれど、一緒にいて楽。女だからと変に気を遣わなくていいし、何でも話せる。


恋愛感情は、元々ないけど。

最近、目で追ってしまう。時々見せる切なさに歪んだ顔が、放っておけない。

なんだかんだ、一途で真面目な奴だから、きっとまだ苦しいのかもしれない。


「胡桃沢、相談のってよ」


「え?いいけど。山口の奢りね」


仕事終わりに、胡桃沢と飲むこともしばしば。

そしてうまく乗せられ、奢らされることもよくある。

まぁ、今日は別だけれど。


「山口はどう思ってるわけ?」


駅前の立ち飲み屋に来て、胡桃沢は一気にビールを半分飲み干した。


「どうって…やり直す気はない」

「じゃあ、そう言えばいいんじゃない?」

「けどさ、なんか…情が」


冷たく突き放せないのは、どこかしらまだ好きだと思っているからなのか…

傷付けたくないというエゴなのか。

胡桃沢は勝手に次のビールを頼んでいる。

俺の奢りとはいえ、飲むペース早いな。


「情がって言うけどさ、ちゃんと突き放しておかなきゃお互いの為に良くないじゃん」


「そうだよな…」


胡桃沢はよく知っている。
別れた後も、少しだけ元彼と関係を持っていた。
都合のいい女になっていたんだ。

元彼にはもう新しい女がいながら。

あの時、胡桃沢は言ってた。

『新しい女がいるなんて知ってたら、勝手に期待もしなかった。嘘でもいいから、嫌いって言ってほしかった』


煮え切らない俺に、胡桃沢は明るく笑った。


「そんな所に優しさなんていらないんだよ」


山口は優しいから、と。


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