檸檬-レモン-




「あ~ぁ、早苗も彼氏が出来るのかな…」


電車の吊革に掴まって、過ぎ行く街並みをぼんやり眺めながらしみじみ思う。


「なんだよ、取り残されたって?」


「んー…そんな感じ。この先結婚出来るのかなとかさ…」


周りはどんどん先に進んでいくのに、私はいつまで経っても同じ場所のまま。


うじうじ悩んでる。


「そんなことないだろ。でも、胡桃沢はまだ忘れられてないんだと思うけど」

「だーかーら!何度も言ったじゃんか。もう吹っ切れたって」


ハルも山口も…どうして。

好きなんかじゃないよ。

戻りたいなんて思ってないよ。

ただ…


ただ色々な場所や物にあいつとのエピソードがあって、それが蘇ってしまうだけ。


「頭で思っているのと、心の奥底で思っているのは違うんだよ」


「難しい話は分かりませーん」


会いたいなんて、思わない。

四六時中、あいつを考えなくなった。


それって、違うのかな?


あんなに苦しくて、毎日泣いていたのに、今はなんてことない。


私は乗り越えてなんかないのか、な…




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