「あった!ほら、使いなよ」



花柄のハンドタオルを山口に差し出すと、面を食らったようにしばらくポカンとしていた。



「ごめん、あたしのせいで…」


きっと私に気を遣って、濡れないように傘をさしてくれていたのだろう。右側が雨に濡れて、ワイシャツが腕に貼りついていた。


「あ…あぁ、サンキュ 」


「女子力ちょっとは上がったでしょ?」


そう言って私はニヤっと笑う。


「胡桃沢が女子力高いと、なんか調子狂うわ。これ、洗って帰すよ。じゃあな、お疲れ」


「あ…お疲れ」


洗わなくたって良いのに…

山口が反対ホームへと歩いていくのを見送った。



でも不思議だ。山口に少し仕事の話をしただけで、気持ちが楽になっている。


いつまでもくよくよしたって、しょうがないよね。




「あ…」


マンションのエントランスで、目が合った。


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