「マジ…」


会社のエントランスで思わず呟いてしまった。



傘を忘れた…



外は強く雨がアスファルトを打ちつけている。



早苗と一緒に帰っておけば良かった。


やっぱり嫌な事は立て続けに起こってしまうもの。


「胡桃沢?お疲れ」


「山口!いいとこに!」


この時ばかりは、山口が救世主に見えた。


「え、もしかして傘忘れたの?」


「そう!駅までよろしく」


「べ…別にいいけどさ。バカだろ」


山口は黒い大きな傘を広げて、悪態をつく。


「あたしだってまさか忘れたと思わなかったよ。ごめんて!」


そう言えば、山口とこんなに近くで会話をするなんて初めてだ。

意外に背が高くて、横に並ぶと自分が小さく感じる。私だって女の子にしては高い方なのにな。


「胡桃沢最近ぼーっとしてるからな」

「え、分かる?」

「分かるよ。ため息だってはいてたし、なんか抜け殻って感じ」


無意識ってこわい。いや、山口って周りを見てちゃんと気を遣える奴だからな…


「まあ…企画ダメ出しされたからね」

「なんだ、そんなことかよ。俺なんて毎日ダメ出しされてるぞ」


山口が?っと思って思わず見上げた。


至近距離で目が合う。


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