檸檬-レモン-




「あ、これ。"レモン"のクッキー。どうしたの?」


篠崎さんに頂いたクッキーを、早苗にお裾分け。

早苗は嬉しそうに瞳を輝かせた。

そんな顔で見つめられたら、男も放っておかないだろう。


「昨日ね、下の階に越してきた人が挨拶に来てさ。もらったんだ」

「そうなの?レジの前に並んでて美味しそうって思ってたの!奈々、ありがとう」


小腹が空いたら、食べよう。


手の平大のなかなかの大きさ。


ふと、山口と目が合う。
向かいのデスクだから、今の会話を聞いていたのだろう。


「半分ちょうだいよ」


「しょうがないなー…」


袋の上から半分割って、山口に渡した。


コーヒーと一緒に一口で食べてしまう。

あんた、もうちょっと味わって食べなさいよ。


「ん、これさっぱりしててうまいわ。サンキュ」


シンプルな見た目から、バタークッキーだとばかり思っていた。


私も一口食べてみる。



鼻から抜ける、柑橘の香り。




レモンの、香り。




.