「どうしてくれるのよ。ライト•ノーノ!」

つい、彼女は呼び捨てをしてそう言ってしまった。

「ま、まずは、アムール国へ戻り、その後は医学の神にでも見てもらうといいですね。では、私はこれにて失礼します。次の授業がありますからね。生徒達はこの私を今か今かと待っていますからね」

そう言って、ライト•ノーノは逃げるように校内へ行ってしまった。

丁度、そこで次の授業が始まるチャイムが鳴り響いた。

生徒達は、窓から離れて何事もなかったかのような表情で皆、再び着席をした。

ジュノは、自分の両手を目の前で見詰めては自分自身が移り込むこの鏡の手に腹を立てる。

「飲みすぎがいけないなら、どうしてもっと早くに教えてくれなかったのよ! ......ライト•ノーノ!」

誰もいない学校の外で独り言を言っていた所、誰かに肩を優しく叩かれ声をかけられた。

「ジュノ......だね?」

振り向くと、それはアネモイ国の王、ゼファーだった。

風を操る神あるだけに、清潔感のある外見であった。

爽やかな顔立ちに、綺麗に仕込まれたような清潔感ある服装......。

ヴィーナスとの中が良い為、時々アムールでも見かけた事がある。

「ゼ、ゼファー国王......」

「久しぶりだな。君と前にあったのは、ほんの少女だった時だったな。ジュノ、君とカゲン、エンデュは大切な記憶が原因不明で消されているようなんだ。ヴィーナスのお陰で私も発見出来た事だが......。君の家族や母国の神々は皆、闇を操る力を持つ神なんだ。けれども、君は彼らに恐れられていた。その事を、覚えているかい?」

「......いいえ。何も、覚えていません」

「そうか......。何故ならば、君は恐れられる程、闇の力の能力が凄まじく強かった。それは、素晴らしい事だ。けれども、闇の一族達は恐れるだけだった。哀れに思い、ある若者が君を助けてアムール国へ送ったのだよ。その名は、確か......うーん、サニーだったか、さっきーだったか......」

「そんな大切なことを、私は思い出す事が出来ないだなんて......」

「あ、でもきっと思い出す事が出来る時は来ると私は信じている。君も信じ続ける事が大切だよ?」

「そうですね、ありがとうございます。ゼファー国王」

「はははっ。......そう言えば知っているかい? このアネモイ国はアムール国と負けないくらいに平和大国だと。違いは一つだけあるがな。アネモイは、風が吹き続ける美しい自然が生きる国。アムールは、愛に溢れた国。どちらも、それぞれ素晴らしい国だよ、まったく。君もそう、思わんかね?」

「えぇ、そうね。......そうですね」

つい、いつもの癖で国王の前であるのにタメ口をしてしまったジュノは、敬語に言い直した。

「はははっ。敬語が苦手なら、初めにそう言ってくれたまえ。苦手ならば無理に使わんで良いぞ? ジュノちゃん」

「なら、分かったわ。......ふふっ」

思わず、笑ってしまった。

「では、後は真っ直ぐに行けばいいだけだよ。私はここで見送ろう」

「ありがとうゼファー、さようなら。機会があったら、また行くわ。今度は、勉強じゃなくて遊びに。......もう、こうなるのはごめんだわ」

そう言いながら、ジュノは自分の鏡と化した両手をゼファーに見せつけてから踵を返してアムール国へ向かって歩き出した。

「いい子だなぁ......。可愛いし......」

ゼファーは、ジュノの後ろ姿を見詰めながら呟いた。