「5年前、僕の妹のコノハナは当時、尊の国では大流行していたミズミズ熱を起こして寝込んでいました。
それはそれは恐ろしい病でして、体中が水でひたひたになり膨れ上がり激痛となり、熱が発症されます。
医学の神はこのままでは、助からないとついに言い出しました。
当時の尊の国にはミズミズ熱の特効薬はありませんでした。
アムール国の真夜中にだけ開かれし場所、黒い巣。
そこへ行けば、欲しい薬はいくらでも見つかると医学の神は言いましたが彼もまた、ミズミズ熱に発症してしまい......そこで、僕が変わって行く事になったのです。
しかし、僕のような神は立ち入る事が出来ません。
だから、夜の神のお力を借りたんです。そうすることで、特効薬を手に入れることに成功しました。
お陰で、コノハナも熱は下がり健全で、医学の神もすっかり体調は元に戻りました。
しかし、僕のような神が闇の神や夜の神が使う事を許される薬を買い取る事は規則に反します。
だから、アムール国の女王、ヴィーナス様と尊の国の王、スサノオ様から罰せられました。その罰というのが、屋敷の神として屋敷の神らしく何処かの屋敷で汗水垂らすほど働き続けると言う内容でございました。
そして、僕は今にいたります。
......要するに、こちらの国で働いているのはスサノオ様に愛想疲れて罰を終えるまでの間、国を追い出され、このアムール国でヴィーナス様の罰に素直にしたがっているんですよ」
すると、カウンター席に座る男はアスハの方を振り向き言った。
「まるでホラーだな」
すると、アスハは笑顔で誤魔化した。
「っはは......」
「聞くほどやはり恐ろしい女王だ。......だけれど優しい。それが、余計に怖いところだ」
「えぇ、本当に」
すると、一人の客はパールを支払うと出て行った。そして、アスハは木のテーブルの上に置かれたブラッドワインの真っ赤な色が少し残されたワイングラスをバッカスのいるカウンターの場所へ片付けに行った。
すると、バッカスは口を開いた。
「アスハ」
「はい。何でしょう?」
「お前さんが他人にこの真実を教えたのは初めてだろう。そうまでして、彼らはお前さんにとって信じられる奴らなのか?」
「はい。勿論のことです。彼らには、他の誰にもない力を秘めています。......僕には分かる」
「そうか、そうか。確かに彼らは元々、特別強力な力を秘めていた神達だ。だから、ストーンが溶けてしまったと知ったときは、正直この私もショックだったねぇ」
「確かに、そうですね......」
そう言いながら、エンデュとジュノの方をアスハは見詰めた。
ふと、エンデュの口にソーダの泡が付いているのにジュノは気が付いた。
「ここ、付いてるわ」
ジュノは自分の口元に指を指して教えた。
すると、エンデュは白いシャツにしまい込んでいた、綺麗に折りたたまれたハンカチを取り出すと、エンデュは泡を丁寧に拭き取った。
「さぁ、行こうか。......あいつが心配だ」
そうエンデュが言うと、ジュノは微笑んだ。


