「............ジュノ、飲まないのか?」

エンデュは、考え込んで目の前にあるソーマを中々飲もうとしないジュノにそう言った。

実は、ジュノの力が弱まってしまったため、闇の精霊の封印が何時か解かれるのではないかと言う、焦り、不安にかられていた事をエンデュは分かっていた。

だから、息抜きに彼女をこの居酒屋•デュオニューソスに誘い出したのだ。

ストーンは少しだが確かに再生はされていた。その結果、徐々にだがエンデュの心は昔の優しさを取り戻しつつある。

「誘ってくれたのは嬉しいけど......」

そう言ってジュノは、ピアノ演奏をしているヘリオスの方を見る。

「なんだか、気まずいわ」

「......気にするな」

「そうね」

すると、扉が開く音が聞えた。

「やぁ、カゲン。その隣にいる若いのは誰だい?」

「初めて見る坊やじゃないかい。......可愛いわね。だけど何だか............」

そう言うとダーナは隼人の匂いを犬のように嗅ぐ。

「この子、人間じゃないか。なんて可愛いのかしら」

「何、人間だって? 僕にも見せてくれ」

気付くとカゲンと隼人の周りは野次馬に囲まれていた。

モノ騒ぎに気が付いた二人は彼らの方に視線を向けた。

ようやく、ソーマを一口飲んでからジュノは、きつい口調で言った。

「馬鹿ね」

「あぁ、大馬鹿者だ」

共感するかのように、エンデュは言った。

カゲンは隼人を引っ張り、何とも暑苦しい野次馬達の中を何とか抜け出すと、木のテーブルがある席でエンデュとジュノが向かい合わせに座っているのを見つけ、二人の方へ歩いた。

勿論、二人は呆れ気味の表情でカゲンを見た。

「あなた、一体何を考えているの?」

「............約束した............とは聞いたものだが、まさか本当に連れてくるとは............」

「今日だけだよ。それに、すぐ返すさ」

「でも、規則に反するわ」

色々と彼らが揉め合っている間、隼人は唖然とした。注いだワインの中に何者かの目玉を入れるとバッカスはカウンター席に座る客に渡していた。

「うわ............」

その隼人を、エンデュは本当に何を思ってでも無く、何気なく見詰めた。

すると、カゲンに向き直し言う。

「............ヴィーナス女王に見つかる前に、元の世界へ返せ」

「分かってるよ」

そう言うと、カゲンは隼人の方を振り向いた。

「隼人、行こう」

そう言って、隼人の腕を掴むとカゲンは隼人を連れて店の外へと向かった。

そうして、隼人の耳元で小さく言った。

「......見せたいものがある」

ジュノは、二人が出て行った扉を見詰めながら言う。

「本当に、何事も起こらなければいいのだけれど......」

すると、アスハは割り込んで来た。

「いや、ヴィーナス女王様はそんなにゆるいお方ではありませんよ。僕は知っています。......経験がありますから」

「何があった?」

そう言って、エンデュはソーダ入りのソーマをごくごくと飲んだ。