酔っ払うエレボスは、ふらつきながら
カウンターの方へ来る。

ふらふらしながらもちょうど、エンデュの
直ぐ左側で立ち止まると乱暴にパールを支
払った。

パールとは、神の世界で言うお金の事だ。

人間界では100円、1000円と言うように
神界では100パール、1000パールと言ってい
る。

「ほらよ、パールだ。
この店、ソーマだけは最高だな。
白光酒はまず過ぎて吐き気が......」

彼は、にやりと笑い 嫌味のような口調で
バッカスに向かってそう言った。

白光酒とは、この世界の最大限の光の力を取り入れた美しくきらびやかに白く輝く酒である。

だが、この酒はソーマの様にどこでも好き
な時に手に入る物では無い。光の力を操る
神が酒の神と酒を作る契約がなくては白光
酒を作る事が出来ないからである。

そんな貴重な酒をエレボスは “ まずい ” と
言ったのだ。

「そうかい、所でそんなに乱暴にパールを
扱ってると大黒天に罰せられるぞ」

大黒天とは、尊の国に住む七福神のうちの
一人で金銭の神である。

最近では、神の世界でも人間界と同様
パールを乱暴に扱ったり、パールを盗むな
どのトラブルが急速に増えていた。

それを、減少させるためにその者を罰せる
制度が出来たのだ。

その仕事を担当する神が、金銭の神の大黒
天なのである。

「今週でもアムールでは二人罰せられたそ
うだぞ。お前さんも気を付けなぁ」

「......」

しかし彼は無言でバッカスを睨みつけると
酒に酔った体をふらつかせながら店を出て
行った。

ソーマの飲み過ぎで寝ているナーサティヤ
以外の客は皆、エレボスが出て行った姿を
警戒するかのように見詰めた。

すると、空気を全く読めないカゲンはこう
言い出した。

「このアムールで二人もだって?!」

「カゲンさん、新聞読まなかったんです
か? 愛に溢れたこのアムール国です
ら、パールを大切にしなくて大黒天様に罰
せられた神がいたんですよ。
......正直、僕でもこれには驚きました。
えらい時代になりましたよね......」

アスハがそう言ってカゲンの話相手になっ
ている間にも、エンデュはずっとエレボス
が出て行った扉を見詰めていた。

「..................あの鎧............恐らくユグドラシルのヘルヘイム帝国の者だろう」

そうエンデュが呟くと、バッカスは言い出
した。

「ヘルヘイム帝国、エレボスは死者の国の
神か......。そう言えば、お前さんの兄君も
ヘルヘイム帝国の神だったよな」

「............え?」

確かに、兄がいる事は知っている。
部屋に飾られたあの写真が物語っていた。
しかし、思い出せないのだ。


自分の兄なのに......思い出せないのだ。


「え? って、そうだったじゃないか。
いい神なのになぜ帝国になんぞ行ってし
まったのか謎だよ。死神なのだから、仕方
が無いと言えば仕方が無い事だったのだろ
うがな」


その後も彼は何度も思い出そうとした。

だが結局、思い出すことは出来なかった。