「エンデュ、遅いわね......」

「ここって、 呪いにかけられて熊の姿に変えられたカリストーが出るって場所じゃないか!」

カゲンは、瞬時に、真っ青な顔に成り代わり、目を大きく見開いた。

「だから、人目を気にせずに話せるからここにしたんじゃない。......何、怖いの?」

「怖いだって? ......まさか」

「でもこれって、おかしな噂なの」

「え?」

「だって、カリストーは死んだのよ。浮気をした罪により、呪いをかけられて熊の姿に変えられた。その後に......殺されたの」

「じゃあ、なんで見たって噂が......。ま..................まさか」

「そうよ、カゲン。カリストーは死んだ後もなお、アムールの遺跡をさまよい続けている。..................彼女は、アムールに何か心残りがあるのよ。だから、霊界へは帰れない」

突然、そう遠くはない距離から声が聞こえて来た。

「あぁ。子供がいたからだ」

振り向くと、 落ち着いた雰囲気でエンデュが歩いて来ていた。

「エンデュ! 遅いぞ」


彼は二人の所まで着くと言った。


「............子供の名は、 アルカス」

カゲンは、その名前を聞いてピンと来た。

アムールの闘技場で、同じくらいの年頃の
セトや他の少年達にいつも虐められていた
“ひ弱な少年” を思い出した。


............あの子に違いない。


「あ、あの子か」

「......カリストーは、息子のアルカスを心
配のあまり、霊界へ帰ることが出来なく
なってしまったのだろう」

「......切ない話ね」

「............あぁ」

彼は冷たい口調の中、心があるかの様な表情をほんの一瞬だけ浮かばせた。