ストーンメルテッド ~失われた力~

しばらく月日が経ったこの晩、アムール国の夜の神、ラピスは、霊神の者達と密会をしていた。ラピスは、少し癖のついた真っ黒な髪にしっかりとした真っ黒な瞳、それに加え真っ白な肌としっかりとした体つきが魅力的な神だった。

この内、顔はうつむいており良く見えなかったが、痩せ気味のスタイリッシュなルックスを持った一人の霊神の男は、答えた。

「昼間、僕は居酒屋•デュオニューソスでお酒を飲みに出かけたんだ。けれども、バッカスさん、僕が見えないみたいで......だから、ここにいるよってアピールをするために、近くに、片付けられていない飲みかけのグラスを手に取って、僕はそれを飲んだんだ。でも、それは逆効果......バッカスさんにも、周りのお客さん達にも、怖がられてしまって、店内中は大騒ぎさ」

すると、次に答えたのは小太りのおじさん。このおじさんもまた、顔はうつむいており、表情はまったく見えない。ただ、話す度、口が動くのが見えている。

「俺だってそうさ。丁度、日向ぼっこをしようと思い、噴水広場のベンチに座った頃合だった。......突然、俺に気づかないデブ野郎が俺の上にどっしりと座り込んできた時にゃ、ひでえ有様でな。痛いのなんのって有様じゃねえ、ぺっちゃんこだぞ! 俺の体はまるで煎餅さ」

小太りおじさんが、話し終わった直後、ラピスに視線を送りながら皆、ざわざわと霊神ならではの苦情や、不便を言い出し始めた。

「俺もだよ、俺もだ」

「何とかして下さいよ。ラピスさん!」

それはそれは騒がしいものであったので、遂に、困り果てたラピスは一言、言い出した。

「静まりたまえ!」

そうして、ようやく皆が静まったこの頃合...
...一人の、肌のハリ艶が綺麗な、まだ若い娘は一歩前へ出るとラピスに、言った。

娘は、綺麗に仕込まれた着物を身にまとっており、顔をうつむかせているものの、落ち着いた和の雰囲気はしっかりと漂わせている。恐らく、元は尊の国にいた霊神なのだろう。

「どうか、どうか、私達を助けてくださいまし。アムール国の神々は昼間、私達を目にすることが出来る者は比較的に少ないのであります」

この娘、初めてうつ向いていた顔を上げ、ラピスに真っ直ぐで澄んだ瞳を懸命に向けた。

この娘の気持ちに圧倒されたラピスは、遂に、こう言い出した。

「そうか......。それでは! こうするとしよう」