アルの姿が見えなくなり、ジュノは再び闇の精霊達の方へ視線を向けた。
そして、その彼らと笛を交互に見ると、彼女は笛を口元に当て、頬とお腹いっぱいに空気を吸い上げると、思いっきり、息を吹きかけた。
......ピーーーーーー!!!!!!
凄まじい轟音が遺跡中に......いや、アムール国中に響きわたった。
木々は左右に揺れ動き、周囲の神々は耳を両手で塞ぎ、険しい顔を浮かべる。
家でゆったりとブラッドワインを飲んでいたケルノは、轟音に耳をテーブルのお皿の上に乗っていた二つのどんぐりで塞ぎ込み、アホのような顔は、険しい顔に成り変わる。
アムール城で、ヴィーナスは仲のいいゼファーを部屋に招き入れ、会話をしていた途中のこと......
「噂のあの子はどうだい?」
それに、ヴィーナスは答えようとしていた所が、突然の轟音にゼファーは耳を両手で塞ぎ込み、ヴィーナスはめまいを起こし、ふらふらとする頭を抱えた。
........................。
ようやく、笛の音が止む。
「お、おう......なるほど。はははは」
ゼファーは、思わず吹き出した。
そうして、めまいがようやく治まった、ヴィーナスは、ゼファーを見て微笑んだ。
具合の調子が完全に戻ったわけではなかったのだが、そのゼファーの姿に改めて人の良さを感じ取り、気づくと、ヴィーナスは笑みを浮かばせていたのだった。
周囲の神々は、ほっとしたような顔を浮かべて耳を塞いでいた手を離した。
そんなこととは知らないジュノは、笛を吹き終えると、前に目を向けた。
すると......そこには、綺麗に整列をしてこちらを見詰めている闇の精霊達の姿だった。
その光景を見たジュノは、くっと口角を上げ、大きく笑顔を浮かべた。
気分が上がったジュノは、再び、笛を口元に近づけた。
それを目にした周囲の者達は、またか──と言った表情と引き攣る様な表情を浮かべて、両手で耳を塞ぎ込もうとした。
ピッピッピッ......ピッピッピッ
しかし、その予感は大きく外れた。
ようやく、加減を掴めたジュノは轟音ではなく、軽快で元気な笛の音を奏でていたのである。
この笛の音を聞き、安心をした神々は、ため息をつき、耳塞ごうとした両手を下げ、強ばっていた両肩を下げた。
ピッピッピッ......ピッピッピッ
闇の精霊達は、笛の音に合わせる様にジュノの周りを囲い、踊り出す。
「ふふふっ」
ジュノは、その彼らを見て、また笑った。
もう、楽しくて仕方がなかった。
こんなにも、闇の精霊の世話が楽しいものだとは......知らなかった。
でも......アムール国でも、ダークネスの様に、立派に成長した精霊は下部として扱われてしまうのだろうか?
もし、そうなら......結局この子達も......。
そんな思考が、一瞬、過る。
しかし、それは、後にアルから教えてもらう事としよう──ジュノは我に返って、再び、笛を奏で始めた。
ピッピッピッ......ピッピッピッ
その後も、闇の精霊達のダンスは続いた。
周囲にいる神々も、その光景に、思わず笑みを浮かばせる。


