貴士というのはきっと鈴木のことだろう。我が家では専ら苗字を呼び捨てしているが、親しい人間は貴士と名前で呼ぶのだろうか。
「いちおう……」
「そうか。珍しいな貴士が知り合いを連れてくるなんて」
やはりというか、予想通りというか。ここは鈴木の懇意にしている店なのか。
「君の名前は?」
「佐藤樹です」
「佐藤くん、ひどい顔だね。誰にやられたの?貴士?」
鈴木の名前が出てぎょっとする。鈴木が他人に暴力を振るうように思われていることに驚く。
「これは通りすがりのチンピラに……」
「チンピラか、それは災難だったね。まあ、貴士に殴られるよりましかな。あいつ手加減しないから」
「仁志さん、余計なことはぺらぺら喋らなくてもいいんだよ」
バックヤードから戻ってきた鈴木はその手に救急箱を持っていた。