愛を欲しがる優しい獣


「行こう。怪我の治療をする必要があるだろう。立ってくれる?」

どこに、と聞く前に腕を掴まれ、無理やり立ち上がらされる。

そのまま引っ張られるように路地裏から出ると、男は街の中心を突っ切って歩いていく。

「おい、どこに行くんだよ!」

大声で叫んでも男は答えもしないし、振り向きもしなかった。

歓楽街で見ず知らずの男にどこかに連れていかれるなんて、流石に身の危険を覚える。

もう一度叫びかけて、途中でやめた。

ふと思いついたのだ。

……本当に赤の他人だろうか。

先ほど出会ったばかりの男の顔に見覚えがあるように思えたのだ。