(そんなこと考えてどうするんだ)

俺と彼女の人生がこれ以上交わることはない。考えたって仕方ないではないか。

頭にちらつく彼女の残像を振り切るように空になった缶をゴミ箱に投げ入れる。

……忘れようとしているのに。

俺の目はゴミ箱の隣にあるテーブルの上に釘づけになった。

テーブルには今しがた飲んだばかりの缶コーヒーと同じものが置いてあった。

(もしかして……)

恐る恐る缶を手に取ってみる。

“ありがとうございました”

油性マジックで缶に書かれたそれは、女性らしい丸みを帯びた字で。

彼女の優しさを感じて、より一層愛おしく感じた。

もしも。

もしも、彼女に愛されたらどんな心地がするだろうか。

俺は置いてあった缶コーヒーを持ち帰ることにした。

次に彼女にココアを奢る日が来るまでとっておこう。

そう心に決めて。