愛を欲しがる優しい獣


「鈴木さんいらっしゃいますか?」

彼女の声を聞いた時、昨日ココアをあげた人だと直ぐに気が付いた。

(本当に返しに来たんだ……)

律儀だなと思った。普通、100円の缶ジュースぐらいなら貸し借りの勘定の内に入らないだろう。

やがて、取次ぎの人間が俺を呼びにやってきた。

この時になってようやく、彼女が総務部の佐藤さんという名前だということを知った。

佐藤さんは俺の顔を見るなり、がっくりと肩を落とした。

「ごめんなさい。人違いだったみたいです……」

彼女の反応は当然だろう。

今日の俺は昨日と違って、瓶底眼鏡はつけていないし、薄暗い休憩室で見た印象とは異なっているだろう。

一体、彼女は何をしにきたのだろうか。