ココアひとつでここまで喜ばれると思っていなかったので少し驚く。 世の中には100円のココアをここまでありがたがる人間がいるというのに、なにを間違ったのか俺なぞに買われてしまったココアを不憫に思った。 「お金!返しますから。名前教えてください」 「営業の鈴木です」 もう、これっきりだと思っていた。 時間にしてほんの数分、人生にしてみればほんの些細な出来事だったのに。 彼女は次の日も俺の前に姿を現したのだった。