鈴木くんは私の訴えを最後まで茶化さずに聞いてくれた。
そして……。
「おいで」
そう言って両腕を広げた。
「何も考えられないくらい愛してあげる」
……甘い、甘い罠だった。
蜘蛛の巣にかかった昆虫のように、この胸に一度飛び込んでしまえば後戻りが出来ないことは分かっていた。
それでも、私は大理石の床を蹴った。
関谷さんのことも、家族のことも何もかも頭から吹き飛んだ。
マフラーがはらりとほどけて宙を舞う。雪が地面を踊っている。
「愛して」
迷いなくその胸に飛び込むと鈴木くんの鼓動が良く聞こえた。
今はなによりもこの人が欲しい。
醜い私ごと、全部。愛し尽して欲しい。
鈴木くんの背に手を回して、しがみつく。
もう二度と離したくない。
好きだ。
鈴木くんのことがこんなにも。
一度目のキスは壊れ物を扱うような羽のように軽いキス。
二度目のキスは情熱をぶつけるような荒々しいキス。
そして、三度目のキスはお互いの気持ちを探り合うようなたどたどしいキスになった。



