「もう、どうして良いかわからないの」
私はずっと恐れていたのだ。
鈴木くんの気持ちに向き合って大家族の長女という仮面を外して、ただの女に戻るのが恐ろしくて仕方なかった。
私から家族を取り上げてしまえばそこには、ちっぽけで凡庸で空っぽな女が残されるだけだった。
関谷さんが鈴木くんに恋しているところを見て怖くなった。
平凡な私と違って関谷さんは鈴木くんに寄り添っても見劣りしない。
……とても羨ましかった。
私にはないものを持っている関谷さんが羨ましいと同時に妬ましかった。
恋する気持ちが分からなくなったのではない。
向き合う自信がなかったのだ。
好きという感情によってもたらされる、妬みや嫉みに打ち勝つ自信が欲しかった。
どうしても鈴木くんを関谷さんに渡したくない。
彼の瞳に映るのは私だけで良い。
ドロドロとした感情はどんどん膨らんでいって心を醜く歪めていく。
この気持ちはどこからくるのだろう。
……彼を独占したい。そう、心が訴える。
お願い。
私に勇気をください。
(私の望みは…)
「鈴木くんの全部が欲しい」
独占欲と嫉妬心はもう抑えきれなかった。頭がどうにかなってしまったみたいだ。



